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かじさん、読売新聞掲載

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かじさん、読売新聞掲載

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2023/09/27

スマホを見てると、行きつけのお好み焼き屋のお母さんが出てました!

ソースの香り
 鉄板の上で、じゅうじゅうと音を立てるお好み焼き。鉄板からの熱気と香ばしいソースの香りが充満する8席ほどの狭い店内は、居心地がいい。

 JR広島駅から車で約10分。比治山の麓にある「お好み焼き KAJISAN」(広島市南区)の赤いのれんをくぐると、へらを持った店主の梶山敏子さん(82)が出迎えてくれた。調理場には時折、夫で買い出しを担当する昇さん(83)が出入りする姿が見えるが、敏子さんは「手伝いたいんだと思うけど邪魔なのよ」。ぼやく姿もどこかほほえましい。

たっぷりのキャベツと中華麺などが入った自慢のお好み焼き
 店内の年季が入ったメニュー看板には「お好み焼 500円」の文字。薄焼き卵、豚バラ肉、たっぷりの千切りキャベツ、ソースを絡めた中華麺、さらに薄い生地が、層のように重なる。鉄板上のお好み焼きをコテを使って食べると、甘くて濃厚なソースと素材が絡み合い、口いっぱいにうまみが広がる。

 同市内の有名店だと1000円近くすることもあるが、「昭和の終わりから30年以上値上げしてないんよ」。理由を尋ねると、きっかけは78年前の出来事だった。

原爆孤児に
被爆したシダレヤナギの奥にたたずむ店
 1945年8月6日。敏子さんは4歳の時、爆心地から約1・2キロにあった自宅で被爆した。当時の記憶はほとんどないが、木片の刺さった左ももには今も傷痕がある。

 黒い雨が降る中、避難所に定められていた寺に祖父母らと逃げた。母は、爆心地のほど近くに、防火のため建物を撤去する作業に出かけていたが、待てども待てども帰ってこない。「結局どこで亡くなったのかわからない。骨も見つかっていない」。敏子さんが生まれてすぐに病死した父に続いて母も亡くし、「原爆孤児」となった。

 戦後はバラックで祖父母らに育てられた。小学6年の頃、原爆孤児を成人するまで援助する運動の一環で結成された「広島子どもを守る会」に入会した。洋裁や料理などを教えてもらったという。同じく原爆孤児だった昇さんも同会に所属していた。

買い出しを終え、荷物を届ける夫の昇さん
 20歳の頃、同会の世話をしていた広島大教授の勧めもあり、地元テレビ局の企画で結婚した。23歳で長男を出産し、半年後の65年2月、自宅を改造して始めたのがお好み焼き店だった。2人とも親がいない。身寄りがなくなったわけではなかったが、「自分たちの生活は自分たちで面倒を見ないといけない。働かなければ」と産後すぐに働き始めた。

 最初は「主人の留守中に自宅で手軽にできる商売をしよう」という気持ちだったが、いつしか毎日店に立つことが生きがいになっていた。「原爆孤児として色んな人に支えられてきた。この値段で喜んでくれるなら、お世話になった人たちへの恩返しにもなる」

かじさん支援金
経営が厳しいことを心配した客が設置した支援金箱
 夫婦2人で切り盛りしており、「損をしなかったらいい」と思っているものの、近年の物価高の影響で経営は楽ではない。「値段を上げるくらいならやめる」。そんな敏子さんの思いをくんだ常連客が、昨年2月、「かじさん支援金」という箱=写真=を店内に設置した。

 箱には「めちゃめちゃ安くておいしいお好み焼きを食べ、お母さんの温かい人柄に包まれて元気になったら、心ばかりの支援金をお願いいたします」と書かれている。お釣りを入れてくれる常連客や、SNSで苦境を知った県外からの客など多くの人が理念に共感し、支援してくれる。敏子さんは「本当にありがたい。優しい人が多い」と喜ぶ。

 今年でお好み焼き店を始めて58年。昨年は転んで右手を骨折し、店を5週間閉めた。がんや膝の手術も重ね、膝には人工関節が入るが、店をやめることは考えなかった。

 「凝ったお好み焼きではないけど、『昔懐かしい味がする』とお客さんに言われたことがある。この味が好きで来てくれる人がいる限り、続けていきたい。私もその方が元気でいられると思うから」

 店のそばには「被爆ヤナギ」が青々と茂る。被爆したが、新しい幹が成長し、枝を広げる。その姿に自らを重ね、今日も笑顔で調理場に立つ

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